2008-02-01から1ヶ月間の記事一覧

溺れた巨人(J・G・バラード/浅倉久志訳/創元SF文庫)

表題作を、中央環状線を走るタクシーの中で読んでいたが、右手に並行する荒川の深い青さと川面の反射、広々と展開する東京の大パノラマ、ビルの隙間に望遠レンズで引き寄せたように迫りくる富士山・・・という光景が、バラード的世界とあまりにシンクロして…

時の声(J・G・バラード/吉田誠一訳/創元SF文庫)

バラードの作品は「もしもシリーズ」である。現実にはあり得ない状況を設定し、その状況下で人間がどのような行動するかを観察する臨床実験である。荒唐無稽なワンアイデアを、驚異的な筆致でリアルに描き切ることにかけては天才的である。「音響清掃」はメ…

ロビンソン漂流記(デフォー/吉田健一訳/新潮文庫)

無人島への漂着。ゼロからの生活。サバイバル・・・。18世紀のこの作品が、トム・ハンクスの「キャスト・アウェイ」など、時代を超えて繰り返し引用されるのは、物語世界の根幹である”究極のDIY精神”が欧米人男性を強く刺激するせいだろう。 毎日を日記…

私とキャリアが外務省を腐らせました(小林祐武/講談社)

経費詐取で逮捕された外務省経理畑の元ノンキャリアが、裏金づくりの実態を暴露した”懺悔録”。 といっても領収書の改竄や水増し請求、タクシーチケットの換金などその手口はあまりに古めかしいし、裏金の使い道が職員の弁当代や飲食費、一部の私的流用と言い…

女の一生(モーパッサン/新庄嘉章訳/新潮文庫)

よく言えば純真、悪く言えば幼稚な主人公・ジャンヌの一代記。今ならさしずめ連続テレビ小説か昼メロのような展開。いつまでも子離れできず、生活力もなく、追憶に浸って生きるだけの後半生には辟易とするが、細部の心理描写はさすが。ラストの救いの無さに…

光あるうち光の中を歩め(トルストイ/原久一郎訳/新潮文庫)

世俗と宗教の対決。 享楽的なユリウスは、物質的に恵まれている反面、人生の浮き沈みも激しく、常に実存的不安を抱えている。対するパンフィリウスは、生活に窮し陰気であるが、意志強固で動ずることがない。その揺ぎ無さの源泉はキリスト教の理想主義にあり…

孤独な散歩者の夢想(ルソー/青柳瑞穂訳/新潮文庫)

老境に入った作者の追想と繰り言。ここから得られる哲学的知見は何もない。ルソーのファン向け。一人称が「僕」とは気持ち悪い。