光あるうち光の中を歩め(トルストイ/原久一郎訳/新潮文庫)

erevan2008-02-04


世俗と宗教の対決。
享楽的なユリウスは、物質的に恵まれている反面、人生の浮き沈みも激しく、常に実存的不安を抱えている。対するパンフィリウスは、生活に窮し陰気であるが、意志強固で動ずることがない。その揺ぎ無さの源泉はキリスト教の理想主義にあり、真の平安を得るためにはそこを目指せ、というのがメッセージなのだろうが、すべてを投げ打ちコミューンで畑を耕すユリウスの姿に最もふさわしいのは「陥落」という一語である。何しろすでに老境に差し掛かっている。
宗教の要諦は絶対性である。絶対性の維持に全力を傾けることである。人間心理の弱みにつけこんだ巧妙な詐術的システムこそ、宗教の本質なのだ。