人類が消えた世界(アラン・ワイズマン、鬼澤忍訳/早川書房)

今更感のあるエコロジーというテーマに、未来SF的な視点を注入することで、驚くべきエンターテイメント化を成し遂げた快作。アイデアを具現化する圧倒的な取材力には脱帽。文章の創造喚起力を久しぶりに体感した。映像化してチープなCGを見せられると興醒めしてしまうだろう。

 幸福な食堂車(一志治夫/プレジデント社)

仕事ぶりも哲学もすべてがレガシーである。一緒に仕事したらかなり面倒くさい人なのだろうが。こんな人びとが次々と退場していった後に、どんな薄甘い世の中が待っているのかと思うと暗い気持ちにもなる。結局ぜんぶ自分でやらねばダメなのだ。

 鷲は舞い降りた<完全版>(ジャック・ヒギンズ、菊池光/ハヤカワ文庫)

娯楽小説として非常に楽しめた。古典的なメロドラマ的展開は韓流のような安心感がある。田舎娘の愛すべきキャラクターが心に残る。

 血と暴力の国(コーマック・マッカーシー、黒原敏行/扶桑社ミステリー)

驚くべきは、コーエン兄弟が小説をそのまま映画にしている事実。ストーリー展開、シチュエーション、キャラクター、どれもまったくそのままで、ほとんどこれはノベライズだ。行きずりの家出少女のところだけが変更されているくらいか。映画を見てから読むと、より味わい深いのだが、最後の最後で登場人物たちの行動原理を解き明かしてしまったのが小説の細大の汚点。これにて通俗化してしまった。

 オートバイ(A.ピエール・ド・マンディアルグ、生田耕作/白水Uブックス)

バイクという有機的マシンの怪物性を始まりから終わりまで一直線の快楽で描き尽くす。これほどカッコイイ短編があったろうか?最後はやはりこうならざるを得ないとは思いつつ、そこを裏切って欲しかった。