恐怖の存在(下)(マイクル・クライトン、酒井昭伸訳/早川書房)

erevan2009-03-08

地球温暖化説はエセ科学ではないのか?」という、世界中の市民を敵に回すような疑念を、膨大な知識を裏付けにして無理矢理エンタテイメントのブレームに押し込んだ異色作。著者自身の解説にもあるが、反エコロジーの論陣を張るために相当な量の資料を読み込んだようで、そこから得られた知見を、公的機関の科学データなどを交えてふんだんにシーンに落とし込んでいる。だが、もとより論点が複雑なだけにダイアローグは説明過多になり、「科学講義」風に冗長化し、いちいちドラマが停滞してしまう。とはいえ硬派なムードで引っ張った割には、クライマックスでいきなりご都合主義が炸裂、登場人物がスーパーヒーロー化するような笑うしかない展開なので、ストーリーに期待するような内容ではない。歪んだエコロジーブームに対するリテラシーを鍛えるための参考書として、議論パートを中心に拾い読みしていくのが良いと思う。それにしても「自らのイデオロギーを現実化するため、人為的に災害を引き起こす」なんて、どこかで聞いたような話ではないか。そう、著者のメッセージの核心は、世界中に溢れる「恐怖の存在」のメカニズムそのものなのだ。これは極めて危険な核心である。それかあらぬか・・・著者の急逝!