百鬼園随筆(内田百輭/新潮文庫)

erevan2007-12-17

百輭入門書としてこの本を選んだのは失敗だったのだろう。百輭自身をモデルにした男が、毎日ぶらぶらしながら酒を飲み、借金を重ねるだけの、取るに足らない身辺雑記の連続。ファンなら思わずニヤリとするたぐいの筆致なのだろうが、いかにも「軽妙洒脱でございましょ」的な、読者との馴れ合い的な文体に鼻白む。社会性の欠如した、意固地で視野狭窄な主人公(=作者)の言動にほとほとウンザリである。唯一ラストの「梟林記」は出色の出来栄え。隣家で起きた殺人事件の顛末を扱ったものだが、作風もかなり違い、とても同じ作家の手によるものとは思えない。