23分間の奇跡 (ジェームス・クラベル/ 青島幸男訳・集英社文庫)

erevan2007-09-30

タイトルと背表紙のあらすじだけ見ると、理想教育を語った象徴性の高い物語かと思う。実際、中盤まではそのように進む。敗戦国の小学校に赴任してきた戦勝国の若き女性教師が、全体主義的な教育を施されてきた生徒たちに、自由の素晴らしさを伝えていく。始めは動揺していた子供たちも、次第に心を動かされ、最後には喜んで新しい価値を受け入れる。だがここに大きなどんでん返しが隠されており、これもまたひとつの「洗脳」だった、というオチ。訳者の青島も言うように、敗戦後の日本をそのままモデルにしたような話だ。教室内に飾られた国旗を「不要なもの」として生徒たちに切り刻ませるシーンあたりから物語に異様な雰囲気が漂い始める。なかなかうまいストーリーテリングだとは思う。だが意図がうまく伝わっているかどうか。どこかに分かりにくさがある。読者を裏切る伏線としての和訳タイトルも、ひねり過ぎのような気がする。なお本文は和英対称。訳の何箇所か少し引っ掛かった部分は例外なく誤訳だった。