クラッシュ(J.G.バラード、柳下毅一郎/創元SF文庫)

erevan2009-08-02

「結晶世界」「狂風世界」「沈んだ世界」・・・。あり得ないような状況を設定し、その状況下における人間たちの行動を、神の視点で観察する。バラードの作品は、サディスティックな「もしもシリーズ」である。
この「クラッシュ」では、神の視点が下界に降りてきた。主観描写。徹底したリアリズム。血と体液と暴力にまみれた露骨なシーンの連続。すべてが今までのバラードらしからぬ生々しさに満ちている。設定は面白い。だが、かなり退屈である。とにかくインテリの性描写は、まるっきりそそらないのだ。またこれか、もういいよ、とうんざりしつつ読み進め・・・ラスト直前のクライマックスで瞠目である。すべては、この神話的な名場面にたどり着くための、長々とした前戯だったのでは、とすら思わせる。ワンシーンだけで読者を屈服させうる、この作家の恐るべき底力を見せつけられた。
クローネンバーグが、この原作を極めて忠実に再現したことも確認できた。こちらも必見である。