巨大投資銀行<上>(黒木亮/角川文庫)

erevan2009-05-31

ニューヨーク、東京、ロンドンを舞台にした、壮大なスケールの金融小説。エピソードのほとんどが実在した事件を扱っているため、日本のバブル期から世界金融破綻直前までの現代金融史も概観できる。金融工学の複雑なテクニックが随所に織り込まれ、時折理解不能になるものの、伝説的なトレーダーが繰り広げる壮絶な金融バトル、暴走する「経済的合理性」が世界経済を揺るがすダイナミズムは圧倒的な面白さで、ページをめくる手が止まらない。動かす金、手にする金、ともに巨額で途方もないが、苛烈な金融界をサバイブする主人公・桂木の内面はどこまでも健全で、そこがこの小説を親しみやすく、好感の持てるものにしている。マネー関係のハードカバーを何冊読むよりも、ずっとリアルに状況が血肉化される。表現の威力、物語の重要性をまざまざと見せつけられた。