昭和史を動かしたアメリカ情報機関(有馬哲夫/平凡社新書)

erevan2009-05-20

アメリカによる戦中戦後の対日工作を、おもに公文書館の資料を発掘し解明した労作。第1章「ルーズベルトの”陰謀”はあったのか?」は特筆すべき内容で、謀略史観の誤謬を説得力を持って批判する。たったひとつの政治的行動といえど、様々な階層におけるパワーバランスの変動と、いくつもの偶然が重なった末の産物であり、「奥の院」の「闇の組織」が指令を発するといった単純な構図で説明がつくものではない。会社の経営判断ひとつ取っても、そんなものではないか。内部では「いろいろ」あったのである。その「いろいろ」は、極めて卑近で人間くさいドラマだったりするのだ。徳間書店あたりが小銭を稼ぐ謀略史観と縁を切り、まとまな頭になるには最適の書。「『中国問題』の内幕」(清水美和ちくま新書)の併読がお勧め。