生物と無生物のあいだ(福岡伸一/講談社現代新書)

erevan2007-11-07

本書の成功は、その多くを文体に負っている。海外の科学エッセーを翻訳したかのような、古典的で詩情たっぷりの語り口。もったいぶって話がなかなか前に進まず、正直辟易するのだが、この独特の文学性が、分子生物学という専門領域であるにも関わらず一般読者を入りやすいものにしていることは間違いない。(そもそも生物学とは、文系人間にも理解できる唯一の理系科目だ)
ハードカバーを一冊読み終えたような充実感はあるが、いまひとつ残るものがない。引っ張るだけ引っ張っておいて著者の主張する「動的平衡論」には一部しか触れていないからだ。もっと話を聞いてみたい、と世間に思わせたら勝ちなわけで、このマジックワードの発表こそが本書の根本であったのではないかという気がする。サイエンスの領域には、分かったような分からないような説明でメシを食う連中が多い。そういう意味では養老猛の「バカの壁」や茂木健一郎の「クオリア」的な路線を行こうとしているかのようである。