夜のピクニック(恩田陸/新潮文庫)

erevan2007-10-16

永遠の青春小説、と評されるこの作品。読後感は相当「奇怪」である。
一応、現代の高校を舞台にしているようだが、ここには「ケータイ」も「イジメ」も「売り」も出てこない。登場人物たちは決して汚い言葉を使わず、信じがたいほど品行方正な会話をやり取りする。あまりのあり得なさに、実は全員幽霊だった、痴呆性老人だった、等のオチなど予想してみるのだが、それらは途中でさりげなく否定されていく。ラストには何か思いもかけない「どんでん返し」があるはず・・・と最後まで読み続けたが、淡々と、いい話のまま、ストーリーは幕を閉じてしまう。
作者の真意が掴めず、しばし当惑。確信犯なのだろうか。現代を舞台に、純粋で健全な高校生の話を作ってみた結果、あまりにもリアリティのない、まったくの御伽噺になってしまった。この手の物語が成立しないほどに、今の世の中は終わっているのだ・・・。それならまだ分かるのだが、世間の反応からしてもこれは「ピュアないい話」らしい。この小説世界に真面目に共鳴している層がいるとしたら、病状はかなり進んでいると思う。
歩行祭なる、単調な素材でよくこのボリュームを書き切ったと思うし、構成も教科書的で無駄がない。その力量は認めるのだが、てらいも無くこんな物語世界を作り出す精神性(と、それに反応する層)が不気味である。純粋さを突き詰めると、狂気に至るということか。