月に響く笛 耐震偽装(藤田東吾/講談社)

erevan2008-07-05

耐震偽装問題の当事者である、イーホームズ社長・藤田東吾氏自身が書いた実録ドキュメント。藤田氏の告発が日本列島を震撼させる偽装問題の発端であり、事件を俯瞰するためのキーマンとして彼以上にふさわしい人物はいない。しかも彼は元々マガジンハウスの編集者であり、かなりの筆力を持っている。結果、凡百の経済謀略小説を凌駕する圧倒的な面白さの本書が出来上がった。メールの過去ログなどを活用し、関係者の生々しい言動を時系列で詳述していくあたりの構想力と筆力はさすがで、一度読み始めたらやめられない。比較的温和だった官僚が豹変し、組織防衛を目的に集団で襲いかかってくるあたりから、渦中にいたものだけにしか分からない迫真の場面が連続する。マスコミへのリークと情報操作、その尻馬に乗るメディア、別件逮捕の画策、裏社会系の人物の跋扈・・・。官を敵に回すことの恐ろしさを存分に味わえる。ヒロイズムに酔った、あまりに「小説的」な部分も多々あるが、事実の迫力がそれを軽々と押し流す。