わたしの訳 世界人権宣言 (アムネスティ・インターナショナル日本支部篇/明石書店)

erevan2007-10-05

アムネスティ日本支部が主催した「世界人権宣言」の新・日本語訳コンテスト。その受賞作と選考過程を収録したのが本書だ。
最優秀作に驚かされる。「超々訳」と銘打たれたそれは、各文が英語の原文とまったく対応していない。世界人権宣言をネタに、諧謔に満ちたマスコミ批判、政治批判を展開する、純然たる「創作」である。左翼的イデオロギー満載の内容はさておき、なぜこれが大賞なのか。その選考過程が非常に興味深い。
谷川俊太郎を委員長とした5人の選考委員とアムネスティ職員たちとの議論。職員側は概ね「特別賞」ならまだしも「大賞」にするには抵抗感がある、という意見である。応募者の大多数が、難解な定訳を少しでも理解しやすく、と「正統訳」に取り組んでいたことがその理由で、ごく常識的な意見だ。ところがロジャー・パルパースなる人物がこれに反対。「だから日本人はマジメ過ぎ」とステレオタイプな日本人観で両断、「オリジナルにこそ価値がある」と頑強に主張し、この外人に押し切られるような形で大賞が決定されてしまうのだ。
善良な人たちのごく素朴な感覚が、声のデカい人間の倣岸によって無残に踏みにじられていく。その醜悪さが人権宣言の趣旨と明らかな対照を示し、何ともブラックジョーク的である。
15年近く前の本だが、この外人以外にも、思想的に大きく左に傾斜した委員が嬉々としてこの作品を評価していたりと、今となってはこのイベントの性格自体がなんとも異様に映る。