マッターホルン北壁(小西正継/中公文庫)

加藤保男の「雪煙を目指して」を髣髴させる。どこまでも突き抜けた爽快感。全篇に溢れるこの圧倒的な楽天性は何なのか。批判などお構いなしに、思ったことはストレートに口に出す。一緒に登攀するはずの仲間が滑落死しても、中止など考えもせず、当たり前のように計画を推し進めていく。そこに「弔い合戦」のような重たい悲壮感は一切ない。小学生の心を持ったままの大人。そんな時代だったのだろうか。時に残酷と思えるほどの、あまりにも純粋すぎる精神性に強く打ちのめされる。